シナリオ記法ってなんだ?(TRPGと物語(xiii))

■シナリオ記法って実に壮大なテーマなんだけど(w なかなかまとまった時間をとれないのでちょっと小分けにしていきます。今回は、TRPGにおいてシナリオ記法ってどういうものだったのかしら、という個人的分析なお話。

■かつてダンジョンを探索することがTRPGだったころ、シナリオ記法について悩む人はほとんどいなかった。ダンジョンに潜る理由なんてフレーバーで、ともかくダンジョンに潜って、ハックアンドスラッシュして生還してくればそれでよかった。そのために作られるのは、ダンジョンの中の部屋とそのつながりであり、ランダムやイベントで発生する敵とのエンカウント情報であり、様々な罠、そして財宝のありかとその性質だった。

■そのバランスが悪ければ文句が言われるものの、とかくダンジョンを設計する限り、そこにはやはり命がけのやりとりとドラマがあって、協力があり、予想外のハプニングがあり、種類は大変限定されるものの、プレイヤーが物語と誤解するような何かを見つけ出すことさえ容易に行われた。そこには常に乏しい資源を運用するという常在する葛藤があり、ダンジョンを潜ることと時に戦闘が発生することの間にリズムとその緩急があり、始まりと終わり、そして設定など無くても手に触れられる確固たる世界があった*1

■これらの意味において、語弊を畏れずに言うなら、クラシックD&Dは、ジャンルを特に限ることによって成功した“物語やるTRPG”だったとはっきり言える。そしてそのことは、おそらく後のTRPGに少なくない影響を与えた、と、こちらは“思う”。

■しかし、TRPGがスキル制を手に入れ、様々な複雑な世界、人間関係、あるいは様々な物語上のジャンルを手に入れ始めた頃から、ことシナリオ記法に関してのみ言えばTRPGはひどい迷走を始めることとなる。*2そしてその迷走は実に「ゲームマスターの創造性」というデザイナーにも遊ぶ側にもひどく甘美な言葉によってずっとずっとごまかされてきたのだ。

■…シティアドベンチャーのような様式を遊ぶ際、交渉や謎解きの多くを、無法地帯や実に乏しいシステム的な支援でやったことはないだろうか? あるジャンルの物語を遊ぶためにいちいちドラマ性に準じた進行管理をデザインしなければならなかったことは? シナリオをどう書けばいいのかわからなくて、小説もどきを書いたことは? 物語の展開はこうだからと、嫌がるプレイヤーに共感しにくいキャラクタープレイを強要したことは?*3

■そして世のリプレイの多くが戦闘ルールしかないシステムなのに非常に複雑で劇的なセッションを称揚し始めてから、似て非なる吟遊詩人的なマスタリングが横行し始めた。しばしば「〜みたいな物語を再現する」みたいな宣伝文句で売っていたシステムの多くが、そのジャンルの物語をしっかり再現する物語やる系のルールに乏しく、役に立たないフレーバーテキストの中で、様々な葛藤をノリとぐだぐだな物語センスで解決しなければならなかったりした。もちろん例外は多数あったのだけれど。

■でもま、実に、それはそれで楽しかった(w しかしここに物語やるTRPGから真逆の方向へと向かったシステムが多かったのは疑う余地もない。物語的な興奮がこれほど称揚されていたのにもかかわらず、である。

■…それでも一部の優れたゲームマスターたちは、語りのテクニックによってプレイヤーに物語を感じさせたり、様々なミニゲームや管理系をその都度デザインして物語やるTRPGにシステムを完成させたりして遊んできた。*4でもそんな異能*5を趣味で遊んでいる方たちにろくに解説もせず求めるなんて、製品としてどうよ? と、今ならはっきり思える。

■しかし。

■しかしいくつかTRPGシステムを作ってみるとよぉーっくわかるのだが、なるほどこれは手強いんだわ(苦笑)。月夜埜綺譚の製作においても、その中盤から後半に書けてはかなり意識的にこの問題を取り組んできたのにもかかわらず、正直満足のいくラインからはほど遠いものにしかならなかった。*6実は、多くのプロですら敗れ去ってきた超高難易度な問題だったのかも知れない、とか最近は思う。

■いま現在。物語性を強く意識したシステムも多く発売されるようになり、各社各デザイナーの発想の中にシナリオ記法が間違いなくあることを実感できるものがずいぶん増えた。もちろんそのアプローチはいろいろある。当然ながら物語やるTRPGからほど遠いものも多いし、ストーリー部を吟遊詩人でやれってことなのかなあ、と解釈できるようなものだってある。けれどTRPGのシステムはまだまだ進化しているようで、これはとてもいい流れだと思う。

■さて、次回はそういうプロの作品を分析しつつ、物語やるTRPGのシナリオ記法についてちょっとさぐってみる予定です。

■つづく

*1:そして後のサポートで、背景世界すら手に入れた。

*2:他にもいろいろ評価軸はあるから、シナリオ記法の意味だけで今回は読んでくださいね。

*3:しくしく。全部僕の実話だぜ。

*4:ま、それができなくてしょぼーんとなる人だって少なくなかった。僕もそうだ。もちろんそういう人たちが、そう優れたゲームマスターでなかったのは事実だったろう。でも、シナリオをどう書けばいいのか、本当の意味できちんと書いてあったルールがあまり無かったのも事実だ。そしてその意味では、彼らがひどいできのシステムの犠牲者だったのだ。あとだしジャンケンな論法を許されるなら、世に出回る多くのマスタリング講座の類のかなりの部分は、もとよりシステムにその機能が内包されていてしかるべきなのである。もっとも単にそれがひどく難しすぎて、プロデザイナーでさえもなかなか実装できなかったという部分は確実にあるんだろうけどね(苦笑 

*5:異能:まずは娯楽であるはずのゲームで才能と強力な蓄積が必要な要素を当然として求めるなんて、ありえんでしょ普通、と言えば言える、という思いをこめた表現。

*6:プロの作るシステムで、物語的展開を念頭に置いたものなのに、この問題をてんで意識してないのも少なくもないんだろーけど、悪い例なんかは紹介しません。あしからず。