ゲームマスターというプレイヤーと、システム(TRPGと物語(xi))

ゲームマスターと呼ばれるプレイヤーが、セッションのためにやらなければならないことは実に多岐にわたる。まずシナリオを用意してこなければならないし、それを他のプレイヤーに描写して聞かせなければならないし、プレイヤーの行為に対してリアクションを返さなければならないし、NPCのデータやバックグラウンドで起きている事件などの状況も管理しなければならない。まとめると、だいたい「準備」「司会」「審判」「積極的に人の話を聞くこと」になるかと思う*1。もちろん他にもいろいろあるけど。

■…ともかく、ゲームマスターがもっとも大変であることは議論を待たない*2。にもかかわらず、マスターにあまりな重責をぶつけ、それこそできの悪いゲームデザインの尻を拭かせるような役目を負わせていたシステムも、かつては散見されたものだった。幸せなことにそれは過去の問題となりつつあるが*3、いずれにせよ、システムをこれから作ろうというならば、ゲームマスターをこそもっともサポートしなければならないのは至極あたりまえである。*4

■ではゲームマスターのためにシステムは何ができるだろうか。って考えてみると、まあ実にいろいろあるんだが、だいたいまとめてみると以下の要素に収斂されるかと思う。

TRPGで表現される世界が、共有されやすいこと
これは二つの側面で語る必要がある。まず、そのTRPGに発生する課題や問題をプレイ卓全体で共有することがたやすいこと。たとえば“いわゆるひとつのの中世ファンタジーふう世界”では、「情報を集める」アクションを行うとき、酒場や盗賊ギルドなどに聞きに行くことが定番化している*5。こういった事実はすなわち世界観の共有を行う手続きが少なくていいことを意味し、マスターの手間を具体的に少なくする。…もう一つは、ルールによって世界観を体験することがわかりやすく行えること、である*6。後者は常に為されることが望ましいが、“どちらかというと共感を得にくい世界”であればあるほど、世界を共有するためのルールの補助を強く行う必要があることがこれでわかる*7
障害とその解決手段が双方に納得しやすいこと
これも一言で言えば世界の共有の問題だが、より具体的な問題として登場しやすいので別項をもうけた。まずその世界で何が対立軸として扱われているか。何を障害としているか。そして何が乗り越えるべき障害としてふさわしく、何が不要か。難易度を設定し乗り越えるというルールがあるのならば、マスターは少し慣れるだけで息を吸うように難易度を設計できなければならない。そしてプレイヤーはあまりそれに違和感を覚えない。そうでなければどこかおかしいと思うべきだ*8。…たとえば銃を撃ち合うのに、遮蔽物に隠れる必要のあるルールとないルールがあるが、その差異をシステムがきちんと表現できているかどうかというのは重要な問題である。遮蔽物のルールがない戦闘は、抽象度が高く、ガンマニア度が低く、戦術がどちらかといえばリアリティよりルール運用の方に依っているだろう。それをピストルの挿画のあるばりばりガンアクションなシステムで行うのはまずいし、遮蔽物がないならないで、ガンマニア的ではない“戦闘の意味”をルールが表現でき、卓で共通できなければならない。*9
システム運用において、勘所が明確であること
システムには、マスターがある程度手を抜くことができる部分を、意図的に作っておかなければならない*10。そして、手を抜いちゃいけないところに注力してもらわなければならない。さもなければマスターはパンクし、ゲームがぐだぐだになるか、パンクする恐れの少ない吟遊詩人へと走らせる羽目となる。…マスターが注力しなければならないのは、世界の表現、シナリオのキモ、そしてそのセッションでマスターがしたいこと、あたりだろうか*11。それ以外の、たとえば個人的な意見だが、プレイヤーキャラクターの登場などというのは、マスターが何一つやらなくていい仕事なんじゃないかと思う。で、マスターがやらなくていいことは、ルールの運用で自動的にプレイヤーがやらざるを得なくすればいい。ともかく大事なのは、こういうことに対してシステムデザイナーが意識的に取り組むことである。
シナリオ記法の簡便・明確化
これは進行管理系のデザインととくに関わるのだが、セッションがゲーム的にどのような定番的展開を持つのかというモデルを、システムデザイナーは明確に作り上げる必要がある。これは何も、ある種類のストーリーしか作れないこと、なんかは意味しない。簡単に言えば、序盤によく使うルール、中盤によく使うルール、終盤でよく使うルール、あたりがあって、それがシナリオを記述する際に直接生きてくるような設計が為されている、といえばいいのだろうか*12。そしてきちんとルールに生きたフォーマットがあれば、シナリオに沿ってシステムを運用する際も悩まずにすみ、マスターはシナリオを読むことや解釈することではなく、プレイすることに注力できる、可能性が高い。
面白いこと
もちろん。ま、ムツカシイけどね。

■かようにゲームマスターを積極的に援助することを考えていくことは、システムの方向性や、システムをどう手にとってもらうか、どう運用してもらうか、そしてシステムを使ってもらうことがどういうことかを考える、もっとも直接的な機会となりうる、というメリットもある。具体的なプレイ風景をきちんと思い描いてデザインする際、マスターの視点は決して欠かすことができないのだから。

■さて、チェックポイントはわかったとして、では物語やるTRPGのマスタリング支援ってなんなのよ、というあたりで次回に続く。

*1:え? 場所の手配やメンツ集めるところまでマスターがやってるって? そんなひどい…。きっさまぁ! そんなことをしているからTRPGが衰退するんだー! と私怨丸出しで思う(苦笑)。いやー幹事って嫌いで。「場所用意するからマスターやってよ」とかいってくれたら大歓迎なのに、なぜかそれは「ご無体な要求と思われて嫌われそう」なんだって。プレイヤーやりたいなら場所のセッティングぐらいしろよー、最近乗ってるから、サタスペ迷宮キングダム無限のファンタジアダブルクロス墜落世界・サヴェッジサイエンス(どれもやったことない(笑)。どれもかなり読み込んでシステム解析はしたが(苦笑)。もちろん月夜埜綺譚のマスターならいつでもござれだ!)、ならいつでもマスター引き受けますぜー、なのに。しくしく。

*2:マスターのほうがやりやすいという人もいるし、それもわかるし、もちろんセッションが乗ってきて、プレイヤーの創作的行動によってのりにのってくるとマスターがやることはずいぶん減ってくるが、それにしても、である。

*3:有名なアリアンロッドの上級ルールブックとかね。あれはなかなかに優れもので感心しました。ただ一方で、あの程度のものが何でもっと早く出てこなかったんだ? とつい思ってしまったのは老害のなせる技でしょうか。いや作った人は全然悪くないのだけど。

*4:ゲームマスターがいなければTRPGの卓は成立しない。その一事のみをもってしても、そのシステムを真摯に遊んでほしいと思うのなら、ゲームマスターのことを第一に考えなければならないのはあたりまえなんである。ましてやメリットはそこにとどまらない。

*5:このあたりごく一部のマニアックな層のはずなんだが不思議とTRPGにおいては多数派である。

*6:もちろん世界観が表現できているからといって、複雑怪奇なルールであっていい理由にはならない。

*7:手前みそだが、月夜埜綺譚においては、ここは「カレンダー」と「コネクション」のルールによく現れている。前者は現代日本で暮らす人が事件を解決するという後ろ盾のため。後者は協力者をまるでFFシリーズの召喚モンスターのように扱うというルールだが、TRPGの情報収集などについて、実は「現代物における定番行動がない」という事実に驚愕したのち、手順をシンプルにするためにつくられた。

*8:よく誤解するところだが、ここは何がリアルかの問題とは関係ない。バーチャファイターの鈴木裕が言うとおり、リアルかどうかではなく、リアリティを感じられるか、が問題である。リアルだから共感を呼べる、というのは無意味な幻想に過ぎない。

*9:月夜埜綺譚においては、戦闘ルールのライトモチーフをやくざ映画に求めた。やくざ映画程度の人数、規模、射程、えーかげんさをめざしルールをつくったのだが、のちにわかったことだが、月夜埜綺譚の全体のコンセプトからすればあれでも重すぎたかもしれない。駆け引き、資源管理、役割分担、一発逆転、必殺技まで盛り込んだかなり面白い戦闘ルールなんだが、それはそれとして、ちょっと反省している。なにしろテストプレイヤーたちですら、ガチで戦闘ルールを運用できる人間が3人しか現れなかったのだから(涙)。…ちなみに月夜埜綺譚の銃撃戦は、モデルとしては常に遮蔽物に隠れながら行っていることになっている。遮蔽から出てつっこむことを「捨て身」と表現した。

*10:これはしばしばルールがある程度以上に煩雑であってはならないことを直接意味する。

*11:DnDとかのダンジョンエクスローラ体験タイプのシステムなら、世界を体験してもらうこと、が一番になるのかも知れない。

*12:これを徹底した極北は「サヴェッジサイエンス」だろう。ある意味ワンパターンしかできないルールではあるが、システム自体がすでにほとんどシナリオ記法である、っていうのはもうすごい(笑、でもマジ)。もちろんあまたのダンジョン物も、ダンジョン自体が簡便で共有可能なシナリオ記法に昇華されているという点で、評価に値する。…まあFEARのに多い最後に戦闘が来ることが決まっているルールは、一番にはそのシステムのシナリオ記法を確立するためにそういう手段をとったのだろう。その点、様々なクライマックスが考え得るシステムほど、シナリオ記法の問題は重くのしかかることになるが、逃げるわけにはいかない。もちろんオフィシャルシナリオの充実である程度はカバーできることだが、シナリオ記法を生み出し有機的に連携できるシステム、はやはり強い。