TRPGにおける世界とは(TRPGと物語(viii))

■さてTRPGにおいて、いわゆる“背景世界”(以下、世界)と呼ばれているモノが、具体的なルールへの反映の有無にかかわらず、一種の暗然たるルールとして機能しているのはもはや常識である(…ですよね? ね?(笑))。本稿で扱っている物語やるTRPGにおける世界の話をする前に、まずTRPGにおける世界がどういうモノであるか考えてみる。

■世界とは、キャラクターがその場所においてどういう存在であり、何を許され、何が許されないのか、そしてそれがゲーム上でどういう意味合いを持ちうるのか、を示す情報である。当然ながら大事なのは、キャラクターの行動・判定を左右する内容。たとえば、クレリックが刃の付いた武器を持てない(クラシックDnD)とか、ファリスの神官は悪即斬(ソードワールド)とか、フマクトの信者は清廉潔白だが頭が固い(RQ)とか。*1地形や人名、神話、歴史的文脈などは、キャラクターの行動に直接相関が現れない限り、どちらかというと枝葉に属する。もちろん枝葉的なそれらをキャラクターの行動に反映させるくらい作り込む、というのはかっこいい。

■これらはたとえ戦闘ルールしかないものであったとしても、である。たとえばキャラクターが他のキャラクターにダメージをいかにして与えるかは、すでに世界を内包しているのだ。その世界において戦闘はどういう行為であり、勝敗はいかにして決められるか。銃は強いのか、剣はスピードを持って当たるのか、急所を狙えばダメージが高まるのか、それとも美しければひとまず勝ちなのか。1ターンは1秒か、10秒か、30秒か、2分か。魔法を発動する際のコストは何か。それらはキャラクターの資源管理の上で、あるいは行動決定の上でどういう意味を持っていくのか。もちろん戦闘ルールしかなくたって、キャラクターの立場はあるだろう。トレジャーハンターなのか、正義の味方なのか、いわゆる冒険者なのか。そしてその立場は、世界との相関の上でどういう意味を持つか。うさんくさがられるとか、歓迎されるとか、ある場所に行くとダメージを受けるとか。…それは、世界である。世界によって決まる、といってもよい。

■セッションにおいて世界がただのフレーバーに堕すとき、すでに設計思想とは関係ない無法地帯で遊んでいるといえる。ちなみにこの事情は、当然、汎用ルールだって変わらない。*2もちろん、ただのフレーバーになりやすいシステムと、そうでないものがあって、どちらが優れているとは一様には言いにくいのだけど、「フレーバーになりやすいもののほうが遊ぶ難易度が高い」とははっきり言えちゃう(笑)。あえてムツカシイのを目指すのももちろんありだけど、硬派気取るんなら意識的にやりたいところ。ちなみにこれらの差異は、システムにどの程度世界が組み込まれているか、厳密に言えば、“どの程度まで、ゲームをプレイするのに必要な「世界」による制限が、数値やランダマイザによる明確な判定系として記述されているか”で区別できる。*3

■賛否両論名高い馬場講座の時代から言われていることだけど、世界はかようにゲームデザインとして製作されなければならない。具体的な数値判定のルールでも、世界を意識せずにルール製作することなど本来あり得ない。*4

■しかしもちろんその世界は、なんであってもよいわけではない。たとえば、世界に規定された葛藤があり、課題があり、それを解決していくことでシナリオが始まり終わる。この過程がどのように面白く、魅力的になるか、幅が広いか、さらにそれをわかりやすく、それほど奇をてらわないカタチでプレイヤーたちにアピールできなければならない。プレイヤーキャラクターが超人で核ミサイルでも殺せない世界を作ったとして、その世界でTRPGやって解決すべき体験すべき目標は何なのか、彼らが失敗したり成功したりする行為は何なのか、それはどういう確率分布を持ってあらわせられるか、彼らが行いうる行為は世界でどういう意味を持つのか、その世界はプレイヤーのリアリティ観念に受け入れられるか。そしてその世界の体験を、プレイヤーたちが共有できるモノとして受け入れられるか。*5

■このように世界を作り込んでいくとき、その世界の性質が、ときおり聞く“ファンタジーもの”の世界の記法に近づいていくことは、個人的にちょっとオモシロイ。ファンタジーといっても剣と魔法のエピックなモノに限らないそれである。…かのジャンルにおいては、幻想的な様々を(我々の世界とは確かに違うが)その場所で起きている現実として描かなければ読んでもらえないので、その世界にある一定の法則を設けるのだという。そして行為の結果や意味を法則によって判定し、キャラクターの葛藤にあわせながら描写していく。もちろん法則が何であるかは渦中のキャラクターは知らないので、ときには無駄とも言える葛藤を強いられることとなるのだが…。けれどこの核となる“法則”がぶれてしまうと、物語は陳腐になり、ストーリーとやらのためのご都合主義の子供だましに堕してしまう。そして、この“法則”にも善し悪しがあり、物語のテーマを取り込み絶妙に盛り上げていく“法則”のもとに展開する物語に涙なんかしたりするのも、良質のファンタジーを読む楽しみだったりするわけで*6

■世界は、TRPGのシステムのなかでほとんど中核である。世界抜きのシステムはあり得ないし、つまらない世界ならどんなにルール実装が面白くてもダメダメ。つーか本来、世界から何を切り出したら一番オモシロイか、がほとんどルールなのである。

■では、物語やるTRPGにおいて、世界をどのように記述すれば一番おもしろそうなのか、そのチェックポイントは何だろう、というあたりで、つづく。

*1:少し言いすぎですね。でもクラシックDnDの刃物が持てないのはまさしく世界であると思います。

*2:実際には、汎用ルールも世界設定なしの時点でもすでに“世界”を内包している。一部の人に有名なローズトゥロードの世界ユルセルームGURPSを遊んでみても、それはやはり“GURPSの”ユルセルームになる。なぜなら、行為判定系がある時点で、キャラクターが一体どういうことをどのように行いうるか、そしてセッションの進行がどのようなリズムに沿って行われるか、が規定されるからだ。それはほとんど世界であるのよ、という話にここからつながっていくわけだが…。

*3:あくまで個人的に、を許されるなら、世界がルールにあまり反映されていないシステムは、重くて、大変そうで、難しそうで、ちょっと遊ぶ気になかなかならないなぁ。この歳になるとねえ(笑)。“世界”を体験することの手間で、重いとか軽いとか考える昨今。

*4:意識せずに作ったところで、何らかの世界を反映してしまうのだ、が正しいかも。剣のダメージを4回受けたらだいたい死亡、だって世界なんだしね。

*5:のか、のか、ばかりが増えてしまったけれど、ルールを作るというのはかように邪道な、ものを斜めから見るTRPGの遊び方なのである。じゃない(笑)。

*6:例題:「ハウルの動く城」の“法則”を考えてみよう。それらがソフィやハウルの葛藤とあいまって物語を形作っていく様を感じてみよう。それがファンタジーというものだ! 原作はもっとオモシロイですけどね。