シナリオの種類をもうちょっと分析する(TRPGと物語(xv))

■前回、シナリオの種別についてちょっと書いたのだけど、わかりにくいと反響があったので、もうちょっと体系付けて書いてみることにする。ちなみにこれは、あくまで同人的TRPGシステムを製作する側からの視点であり、プレイしたりシナリオを書いたりする立場による思考とは若干異なるであろうことを前もって書いておく。また固有名詞は、わかりやすくするために僕が勝手に整理したもので、他の世界で他の名前で呼ばれてたり、違うくくり方で整理されていたりするんだろうけど、まあそこは勘弁してくださいな(w あと前と同じこといってる部分も(w

ダンジョンエクスプローラ

■「範囲が限定された自由に行動を行える部屋*1」と「部屋同士をつなぐ数の限られた通路」*2、それから「部屋と通路を取り巻く設定内容」という表記法で作られたシナリオのこと。D&Dの時代からあるもので、誰が用いても再現性の強いセッションを行えるという強力なメリットがある一方、作るのが面倒くさいというデメリットもある。もっとも前も書いたが、作るのが面倒くさいというのは販売側にとってはデメリットばかりではない。

■当初は文字通りダンジョン(地下迷宮)を探索するセッションを行うために作られていたが、部屋を街や空間に、通路を街道にするといった様々なサブセットを生んでいくこととなる。ここで、部屋の領域をGMの処理の限界まで広げたのが「箱庭型」と言えそうだが、これは別項で扱う。

■このうち特徴的なのはいわゆるシーン型のシステムである。シーン型においては、通路が主に時間の非可逆性の意味から一方通行とされており、分かれ道はストーリー上の分岐として現される。また部屋は“シーン”と呼ばれるある区切りを持った、しかしその内側にある限りは自由に行動できる「物語的まとまり」として記述されている。自由度と制限の絶妙な兼ね合い、そしてその再現性の高さにおいて多くの支持を集めていることは皆様ご存知のとおり。


  • 単純ダンジョンエクスプローラ
    いわゆるダンジョン探索モノをするための迷宮の地図である。迷宮の地図といっても、意味合い的に同じならば、平原や街中であっても変わらない。モンスターデータや、ワンダリングモンスターの出現確率、イベントデータ、宝物の内容や罠なんかが書かれている。基本的には、「最小ダメージの最大利得」を得て帰還することが目的となる。システム的には、ある程度ガチでやれる数学的バランスを求められる。消え去りつつあった様式と見せかけて「迷宮キングダム」で華々しい復活を遂げたんじゃないか、という気もしている。*3

  • 目的指向型ダンジョンエクスプローラ
    ダンジョンをもぐることに、なんらかのストーリー上の目的を持たせたやり方。有名なゴブリン退治など、いわゆるミッションクリア目的にダンジョンにもぐるシナリオがここにあてはまるだろうか。表記法は単純型とほとんど変わらないはずだが、目的が現れることによって、「最小ダメージの最大利得」の基準が様々にぶれるのが面白い。システム的には、キャラクターの行動原理を何らかの形で表記するルールがあると、よりやりやすい。有名どころではD&Dのアラインメントになるだろうか。まあD&Dに限らず、このタイプのシナリオ記法をとりやすいシステムは実に多岐にわたる。

  • 物語指向型ダンジョンエクスプローラ
    ある秩序、主としては時間、にそって並べられた、非可逆な物語的分岐と散りばめられたイベントによって作られる、インタラクティブな物語を味わうための様式。しばしばダンジョンなんかもぐらないのだが、その記法を良く見ると、なぜかダンジョンに一方通行の通路をつけたものに酷似する、という面白い特徴がある。しかし物語分岐をダンジョン的な通路としてきちんと機能させるのは難しく、しばしばGMの制御不能方向へと話が膨らむ恐れがある。システム的な援助としては、なんらかの進行管理形を用意しておいたほうが機能しやすい。…こちらのサブセットとして主に「拡散型」「収束型」「ウェブ型」の三つの様式がある。
    ・「拡散型」はツリー図状に広がっていき、最終的に様々なエンディングをプレイヤーに与えるもの。
    ・「収束型」は結論がひとつであるものの、様々なルート選択などの見掛けの自由度を持ち、十分納得できる形で結論へと導いていくもの。
    ・「ウェブ型」は「収束型」の亜種で、「部屋」のなかにさらにある程度行き来できる蜘蛛の巣状に描かれた「通路」と「部屋」を入れ子にもち、物語的なホールドポイント*4をクリアしていくことによって、最終的な結論に至る。…実際には、これらの様式が純粋な形で使用されることはあまり無く、いろいろ折衷したり入れ子になったりしてそれぞれやっていくことになる。

  • シーン制シナリオ
    物語指向型に、「シーン」という強力な進行管理系をシステム的に用意し、その特質から逆説的にシナリオを構築していくシナリオ記法。メリット・デメリット・精神を含めて間違いなくダンジョンエクスプローラの流れを汲むのだが、物語指向型の機能が必要十分にそろえられており、見かけの記法も若干異なるように見える。…そのネーミングからよく映画的なセッションを実現云々と語られるが、システム的には「どのPCがその“シーン”に登場しているか」を徹底して明確化した様式である。この機能により、GMは物語指向型ダンジョンエクスプローラで本来必要な「通路」の制限力の強さを「登場」によって明確に仕切ることができるうえ、任意に他のPCがそのシーンに割り込む自由度を与え「部屋」の見かけ上・演出上の自由度をはるかに拡大した。GMの管理を逸脱しそうになるシーンはGMが、そんなシーンは無い、と描かないか、シーンへのPCの「登場」を禁止すれば実現できる。さらにハンドアウト*5やスタイル*6などのシステム的補佐により、「通路」や「部屋」の外壁の強度は並みのダンジョンよりも保障されており、仕組み上、高い再現性を持ったセッションを行うことが出来る。*7

箱庭型

■ある有限な自由に行き来できる空間を設定し、そのうちに「時間をトリガーに変遷していくイベント」「PCの行動をトリガーに変遷していくイベント」などを配置し、PCの自由な行動によって様々な物語的発見がなされていく、というシナリオ記法のこと。これらの「〜で変遷していくイベント」は、人間の行動原理や人間関係で示されることが多く、処理し切れれば、きわめて多彩な自由度の高いプレイングを行うことが出来る。システムとしては、箱庭を作りやすい背景設定に努める、ということになるだろう。もちろん、ある程度の物語が自在に織り込める箱庭を事前に用意し、それをアレンジメントすることがシナリオ作りである、というふうにするものも多い。

■例示してみると、キーになるキャラクターが三人いるとして、Aにした行動、Bが背景で行う自動行動、CがPCに対して行う行動、が個別にあったりして、それらの変遷がどのような相互影響系をもたらしていくか、といった複雑なことを、「箱庭型」のシナリオ記法ではしばしばリアルタイムで処理することを迫られることになる。実はこのことは他のシナリオ形式においても多かれ少なかれあることではあるのだが、「箱庭型」シナリオはこの自由度を背景にした多彩な「関係の変化」に焦点が当てられることが多く、結果プレイの難易度を上げる結果になっている。

■ところで見てのとおり、「箱庭型」はダンジョンエクスプローラの「ウェブ型」シナリオ記法のサブセットのひとつである。「ウェブ型」を徹底し、なんらかの広い閉鎖空間を構築すれば、それは「箱庭型」と呼ばれるようなシナリオになるのかもしれない。しかし、その精神というか、シナリオ記述の目的性としては、割と大きく異なる。

■前項に上げた、いわゆるダンジョンエクスプローラの物語を指向する様式では「物語の展開」そのものをGM側から用意するための様々な仕掛けに彩られている。しかし「箱庭型」では、全般的な方向性があったり、オチ自体は決まったりしているものの、「物語の展開」そのものには表面的にはタッチしたがらない。ただ状況がある、というあたり、物語指向よりも、状況が柔軟に変遷していく目的指向型ダンジョンエクスプローラに近い*8

■もちろんそうである必要は無いのだけど、「箱庭型」は「シーン制」などとは若干ずれた層に存在する、別種の「物語発見指向型ダンジョンエクスプローラ」といえるのかもしれない。事実、これは一部のコンピュータRPGによく見られる指向でもある。もっともほとんどのコンピュータRPGでは「箱庭」の見かけ上の自由度やヴィジュアルは強化できるものの、展開の多様性などはなかなか期待すべくも無いのだけれど*9

システム箱庭型

■やりたいことや精神論としてはほぼ「箱庭型」ながら、システムによる補完によって、シナリオ記法的には全く異なった様式となるのが、システム箱庭型(仮称)である。*10

■システム箱庭型では、ゲームマスターがシナリオとして記述する必要があるのはほぼ“課題”と“課題とキャラクターをつなぐ関係”だけであり、シナリオの解法自体にはあまりタッチしない。なぜかといえば、解法自体は基本的にキャラクターに“能力”や“世界との関係*11”として内包されているからであり、このときプレイヤーは“本来キャラクターが持っているはずのこの課題をクリアする能力”を発見していくことが主要なゲームとなる。

■システム箱庭型をやろうとして設計されたシステムなら、ゲームの方向性やジャンルから作られた“その世界らしい解法”を追いかけることにより、ほぼ自動的に“ジャンル・世界の再現”が為されていく。ある意味で解法をオープンにして共有することにより、世界観の共有が簡単に為されるためだ。和マンチ的にシステムを追いつめていった結果、そのジャンルの最もカッコイイ解法が見つかった、というふうにすれば、とくにバランスの悪さを云々されることもない。

■システム箱庭型の最大の欠点はシステムを選ぶことだろう。実は、いかなるシステムでもシステム箱庭型をやろうと思えばできるが、世界観の共有をシステム以外のリソースに重い期待を寄せる、というのはシステムを作る側から見ればあまりよいアプローチとは言えない。またこのやり方は、プレイヤーの能力*12に期待する部分が多く、ダンジョンエクスプローラ系の各様式に比べると、プレイヤー自身がセッションを破壊することが容易である。

PBM型(?)

■前回「広域箱庭型」と称したプレイスタイルだが、PBM以外の様式であまり使用されている感じでもないのでこう称した。要素がたくさんある世界があり、それぞれのプレイヤーがそこかしこに干渉することによって、規模はいかようにあるにせよ世界の歴史が変遷していくような感じの様式である。一般にキャンペーンプレイでは常にこのような構造を持っているだろうけれども、各単体のセッションにおいてもこういったスタイルをとるのをPBM型と定義できるかな、と。

■この様式の特徴は、ほぼ世界自体がシナリオ・ゲームの課題・ないしは“状況”そのものであり、多岐にわたる条件に対して、キャラクターがどのようなアプローチをとっていくか、というのが主眼のゲームになる。そのため世界には強い可塑性が必要であり、可塑性の強い状況が大きく転変していく世界を描いていくことがゲームマスターに要求される。もっとも責任所在はほぼ半々の位置に保たれ、プレイヤーもまた世界の感触や世界の行く末について能動的に接しない限り、ゲームが成立しにくい。

■狭義のいわゆるテーブルトークRPGのような即時応答性が売りのゲーム環境では何かと成立しにくいが、掲示板プレイや、PBMにおいてはむしろ一般的なのではないだろうかと思う。即時応答性を気にしなければ、“答えのでない問題”に挑戦するのも大きな楽しみとなる。…ま、利点も欠点も上に述べたとおりだが、一つだけ注記するなら、ゲームとして成立するほどの様々な輻輳する葛藤に満ちた世界をデザインするのは、そしてプレイヤーの意志をまとめ上げていくのは、簡単ではない。

いろいろ細かく書いてきたけど。

(吟遊詩人、ランダム、フルアドリブは省略。)

■いろいろ細かく書いてきたけれど、実のところそれぞれの純粋な記法で書かれたシナリオというのもあまり無くて、ゲームマスターはろくに意識もせず様々なスタイルを混ぜ合わせたり使い分けたりしていることと思う。

■さてここまで書いてきて、システムデザイナーはどういったシナリオ記法で書かれるかどうかを、ある程度以上、あるいははっきりと想定しなければならないことは明らかだ。なぜなら、多くのシナリオ記法は、その記法を簡便にきっちりと書くために、必ずシステム的な援護を必要とするのだ。それはシーン制や単純ダンジョンエクスプローラに至っても大して変わらない。

■しかしそれ以上に僕は思うんだけれど、できればシナリオを作ると言うことを、あるいはシナリオを元にセッションすると言うことを、少しでも実りの多い“楽しい”行為にしなければならないのではないか。みんなの楽しい時間を作り出すことができた、より面白いことを、シナリオ記法は“生み出しやすくするシステム”として形成されていることが望ましいのではないか。

■簡単な話ではないし、システムデザイナーが何を楽しいと思っているか、というある意味実存を問われる(笑)課題でもある。

■僕らが作った月夜埜綺譚のルールブックには“あなたが何を見てそれをどう感じるのか、それをプレイヤーたちと交わすのはとても楽しい”という趣旨の一文がある。そう思う(笑)。しかしもう一つきちんと書いておけばよかったと公開していることなんだけど、プレイヤーの方々が何を見てそれをどう感じているのかを発見していくのは、やはりとても楽しい。

■そんなわけで、次回は商業で流通しているシステムや月夜埜綺譚のシステムを鑑みながら、シナリオ記法とその楽しみの文脈をちょっと探ってみる。予定。

■つづく。

*1:部屋の中身を探索する、とか、そのシーンで描かれている会話に参加する、といった大枠では決定的に制限されているのだが、その大枠の中では実質的にどんな行動をとってもかまわない、という自由度が同居している空間を、ここでは「部屋」と読んでいる。

*2:部屋と部屋をつなぐものであり、岩壁やストーリー上の要請から、それ以外の分岐(たとえば通路の壁をぶち抜く)を禁止された制限空間、をここでは「通路」と読んでいる。だから、ややこしいけど分岐点になってるT字路とかはむしろ「部屋」になる。

*3:つか、遊びたい。が、仲間がいない。

*4:フラグ処理のように、ある「ウェブ」から次の「ウェブ」へと移る条件を満たしていないと、状況が進展しないことをこのように表現した。

*5:あえて説明するまでも無いけど、PCのそのシナリオ上での立ち位置を規定する事前情報のこと。ちなみにセッションをある程度高速化する機能があるので、他のシステムでも使いでのいいものではある。

*6:ルールとして作られたPCの行動様式。必殺技などによっても補完される。

*7:シーン制を最初に解析したときは感動したものでした。それはさておき、どうしてシーン制をとっているとされるシステムの多くが、最終的にラストバトルで物事を解決する様式を取っているのかは、割と謎です。もそっとFEAR系ゲームを遊んでみるほかないでしょうね。

*8:ダンジョンはその性質上、行ったりきたりすることも許されている。いっぽう物語指向では基本的に通路は一方通行だ。箱庭は内部は少なくともある程度の自由が保障されているわけだ。問題は箱庭型はダンジョンよりもはるかに要素が多く、時間がもたらすものをどう管理していくか、ということに頭を悩ませることになること。

*9:おそらくこの数少ない例外が、ガンパレードマーチ絢爛舞踏祭になるのだろう。かの作品群がTRPGを強く意識して作られたことはもはや有名だが、確かにシナリオ記法の点で、ある種TRPGそのもの、である。なにしろお地蔵さんプレイヤーへの対処までなされてるんだから(w 

*10:ここまでの迂遠な書き方で一部の方はお気づきのとおり、現在構想中の「物語やるTRPG」において、システム箱庭型が一番適しているのではないか、と今のところ仮定している。そのあたり眉につばを付けて読んでいただきたい(w 

*11:有名NPCをキャラクターの能力の一つとして内包させるコネ系のルールとかが一般的かな?

*12:基本的にはルールや世界の運用の問題。世界観の共有を簡便にすることで、世界を巡る責任の所在がゲームマスターからプレイヤーにかなり移るのだが、そういうプレイスタイルになれていない人も相当数いそうだ、ということでこんなことを書いていたりする。実情と違ってたらごめんなさい。