シナリオには何が書いてあるのか(TRPGと物語(xiv))

ゲームマスターの権限というのは、深く考えれば考えるほど、なんだかよくわからない。ゲームマスターの入門書をそうたくさん読んだわけでもないのだけど、どこかで読んだのには「ゲームマスターはプレイヤーを楽しませなければならない」とか書いてあって、本当かよー(w とか思ったものだった。この考え方で言うと、ゲームマスターはさしずめ皆を楽しませるためのボランティアエンターテナー、気の利いたゲームマシン、ないしは奴隷といったところだろうか*1。…逆に、かつて進行管理やプレイヤーとマスターを調停するルールに乏しい時代に、プレイヤーが想定外の行動をとろうとするたびに(パラノイアでもねーのに)zapzapzapするマスターは本当にいた(w ま、普通はゲームマスターはコンピュータ様じゃないし、神様でもない。当然、奴隷であっていいはずがない。またプレイヤーとは一種違うが、楽しみをきちんと見出せる参加者であってほしい。*2

■とまれ、プレイヤーキャラクターの生殺与奪をめぐる主だった権利がマスターの手のひらにあることは間違いない。物語を提示できるかどうかは微妙なもんだが、マスターはプレイヤーキャラクターの置かれた状況を自由に設定することが許されている、ことになっている。而してここに、TRPGを様々に妨害する甘き恐怖“自由”は再び現れることになる。

■さて以前から述べているとおり、世界やルールによって“自由”を“創造的制約”に置きなおしていく試みは、結構前の世代のTRPGから行われてきたことである。しかしシナリオ記法においては、ダンジョンエクスプローラ型のものを除けば、ずっと立ち遅れてきた。正直このため“先人の偉業”を例に出して書いていくことが難しいうえ、日本のTRPGに限っても、シナリオ記法の普遍的なルーリングというものはとくに見当たらない。っちゅーわけで、ひとまずタイプ別に分類して、少し分析してみることにする。

ダンジョンエクスプローラ

■ひとまずダンジョンがあり、潜って、なんがしかのものを集めて、出てくると一段落するもの。実際のダンジョンが出てこなくても、「部屋と部屋同士をつなぐ通路そして次の部屋」といったインターフェイスで、かなりおおざっぱに可能性を制限しつつ、通路による“あらかじめ用意された分岐という形の選択の余地”と、部屋による“あらかじめ用意された状況と、その内部に限定された自由に行動する権限”をプレイヤーに与える、という類のスタイルを仮にこう呼ぶ。

■ダンジョンエクスプローラ型のシナリオには、プロローグの形でダンジョンに入る理由、その通路と部屋の配置、次の部屋へ入ろうとしたときの条件・状況、部屋の内情、最終的に部屋をゴールまで進むことが何を意味するのか、等が主に必要とされる*3

■ダンジョンエクスプローラ型をストーリー指向のセッションにおいて用いる場合も、抽象化すればほとんど同じ図式で描くことができる。*4このとき、単純なダンジョン、ないしは自然環境が舞台の場合は、ほとんど物理的な障害が構造を保証してくれるのだが、ストーリーというあやふやなものを前に出す場合は、舞台設定と各キャラクターの動機付けでそれをコントロールする必要がある。最近の多くのストーリー指向のシステムは、無限に拡散していく分岐を動機付け*5他で収束させる仕組みを内在しているものが多い。

■このタイプのうちに、思いつく限りのマルチエンディングに広がっていく拡散型のシナリオ、一つの結論をベースに様々なシーンが収束していく収斂型のシナリオ、チェックポイントに区切られた自由行動可能なダンジョンを持ち自由度に広がりを見せつつも基本的には一本道をたどるウェブ型のシナリオなどが含まれる。

■見てわかるとおり、もっとも古く、もっとも一般的で、もっとも様々な手によって洗練されてきたスタイルである。*6プレイヤーの負荷が低いものが作りやすく、またオフィシャル側からの“シナリオ”を配布する際に適しており、商業的な要求に耐えうることを実証できているスタイルである。なにしろ、シナリオさえちゃんとできていれば、ルールの理解だけで遊べるものを提供できる。ただその代償として、いざゲームマスターが自作シナリオを作ろうとする際に、たいへんめんどくさい、という欠点を持っている。*7

箱庭型シナリオ

■様々なイベントや、物語的葛藤、人物を配したある一定の自由行動空間を用意し、その中のエピソードを発見していくプロセスで、なんがしかの状況と出会い解決させたり味わったりするというスタイル。これもウェブ構造を持ったダンジョンエクスプローラ型に属すかも知れないが、ある意味で極端な様式ということで別記した。

■この様式で必要とされるのは、まず舞台となる“十分広い空間”の様々な設定。全てを詳細に記す必要はないが、その空気感を作っておかないと、プレイヤーの思わぬ行動に対処できない。それから出てくるNPC・およびNPC集団の行動原理、相関の把握。イベントとその発生条件。最終的にどういう結末に流れていくのかという予想と、その準備、誘導材料、それから予定外の行動でもいいだけの事件を巡る濃い設定内容。そしてそれだけの材料を処理することのできるマスタリングスキル。

■利点は、プレイヤーが自由と体験性を強く感じることができることと、もとよりそれだけの設定量があるので、マスターの限界まで無限の分岐を作り出すことができること。さしあたって強いストーリー的起伏のないシナリオでも、このスタイルならプレイヤーが勝手に物語を見つけてくれる場合もある。

■欠点はシナリオを作った当人でしかおそらくマスタリングできないこと。その当人ですら、限定条件をうまく設計しないと容易にセッションが崩壊する。時間管理もムツカシイ。そしておそらく総合的な面倒くささは、ダンジョンエクスプローラ型の遙かに上だ。*8

システム箱庭型シナリオ(仮称)*9

■システム側が、事件を解決することを助力する様々な材料を配した空間(=街等の設定、のち「街」とする)*10を用意し、ゲームマスターがその空間内に用意した“課題”を、「街」をツールに使いながら解決していく、というスタイル。広義には箱庭型といえるのかもしれないが、そのシナリオ様式は全く異なる。ちなみにシステムが用意しなければならない部分が多く、キャラクターにある程度「街」を包含する部分があるため、僕の知っている狭い範囲だと、このシナリオ様式を簡潔に実装できるのは、「サタスペ」「上海退魔行」「月夜埜綺譚」、あとやり方次第だが「トーキョーNOVA」あたりだろうか。*11

■利点としては、その世界の現実感に即したプレイングが自動発生しやすいことと、キャラクターの社会的な立ち位置を資源として用いることができることだろうか。また自由度の意味では、“課題を解決しなければならないこと”を除けば、かなり大きく設定できる。ゲームマスターの技量に応じて、“箱庭型”度をある程度自由に設定できることも、ストーリーやテーマも考えたいマスターにとっては面白いだろう。*12シティアドベンチャーを比較的経験の浅いゲームマスターがやる場合は、是非おすすめしたい様式でもある。

■欠点としては、もとよりわかりやすい意味での限界領域を狭くとろうとするやり方であり、扱えるテーマを大きく・広くするように設計することが難しいこと。それから、ゲーム云々の前に「街」の好みや相性によってプレイする人間を選ぶこと。また「街」に対する知識や認識が問われるため、システム側からのサポートをきちんと設計していないと、プレイヤーとマスターで知識の齟齬によるトラブルになりやすい*13

ランダム型シナリオ

■シナリオ記法としては、シナリオを書かない、という点で最も極端な様式といえる。もっともシナリオを書かない、そしてその部分をシステムに丸投げする、というだけで統一したスタイルは特にない。利点は準備にほとんど時間を割かれないこと。欠点は、物語的な問題を扱うのが難しいことと、これはこれで運用のテクニックを求められることだろうか。

■ランダム型シナリオのたちの悪いところは、様々なランダム作成チャートを持っているに見せかけて、実はランダム型シナリオをサポートしていないシステムが散見されることである。役に立たないフレーバーワードばかり積み上げられても困るよなあ、というルールは結構ある。

■基本的にはゲーム指向にかなりよった楽しみ方のTRPGとなるため、なんらかの数字で表現できる課題を、様々なゲーム的ギミックを持ったキャラクターによって解き明かしていく、というスタイルがこの様式に向いているだろう。得てして戦闘になりがちなゲームがこういうスタイル*14をとりやすい、というのもその傍証といえるだろうか。

■もっとも、ランダムのフレーバーワードから深い広がりを持った世界を想起できるプレイメンバーもいたりするので、システム側からどうサポートすればいいかについては、一概には言えない。ただプレイヤーに何を求めるかというのを、きわめて強く意識化しなければならないスタイルであることは間違いないだろう。

吟遊詩人型シナリオ

■シナリオがゲームデザインである、なら、これはシナリオではない。基本的には一貫したストーリーがあり、その一部に、プレイヤーがゲームルールを使ってより強固な感情移入を促そうという試みを含んだ、わずかばかりに参加型の部分を持つ独り語りである。

■おそらくこのタイプの天才的なゲームマスターはいると思われる。*15

■だがほとんどの人にとって、苦労ばかり多く、報われないスタイルである。またコンシューマゲームの世界にこのジャンルの傑作はいくらでもあるため、わざわざ人間でするのもなあ、とおもわんでもない部分もある。

■この種のシナリオの前ではどんなシステムも似たようなものなので、システム側から特にサポートする必要はない。

その他の様式

■フルアドリブ。モンスターデータと、キャラクターシートをちらちら見ながらセッションを起こす方式。ランダム型と違って、とくに積極的にシステムに助けられていないのをこう呼べるだろうか。システム箱庭型ができるシステムや、すでに完成された箱庭を持っているゲームマスターは、やろうと思えばできなくもない。しかしそうじゃなければ、ふつーはくだらないセッションにしかならない。フルアドリブ対応を考えるくらいなら、ランダム型でROCする面白さを見いだせるシステムを作る方が面白そうだ。*16

■ほとんどPBMでしか見られないが、世界を用意しておき、そこで起きる様々な事件に参加させる、といった様式は考えられるだろう。「広域箱庭型」とでも呼べるだろうか。即時応答性のTRPGには向かないが、これはこれで非常に深みのある、しかもゲーム的に面白い部分をいかようにでも作れる様式である。手間が最大級なことも間違いないけど(w

■あと、僕はシステムをうだうだ語っているくせに「深淵」のプレイ経験もないしルール分析もしてないので、あの夢歩きがどのようにシナリオ記法を決めるのかはよくわからない。

■いろいろ見てきたけれど、案外バリエーションに乏しい気もするし、なんだかんだいって僕の知らない様式がいくらでも隠れている気もする。

■さて、次回は、サタスペと月夜埜綺譚をベースに、物語やるTRPGのシナリオ記法のヒントを探ってみる予定。それからシナリオ記法に隠された、でも意識を持っている人は持っている、最大の問題。“ゲームマスターは何をたのしむのか”について触れていけたらなー、と野望を思いつつ、つづく。

*1:しかし僕は一方で「ゲームマスターは楽しまなければならない」くらいのことはいつも思っている。基本的には自戒だが、ごくたまに他人様に言いたくなる夜もある。メンバーにもよるので一概には言えないけど、ゲームマスターをやることに対して被害者意識を持つTRPGプレイヤーにはなりたくないし、なってほしくない。そしてシステムがそのために出来ることがあるなら、がんがんやっていきたい。

*2:そんなことを鑑みて、月夜埜では、「ゲームマスターは一風変わった役割を持ったゲームプレイヤーの1人です」みたいな文面を、あらかじめ明記した。当たり前のことなんだが、なかなかわからない人もいるもんなのと、正直に言えば、そのことについてルールで徹底できなかった言い訳もかねて。…ところでこういった“あたりまえ”そのものに異議を唱えたかのように見えるパラノイアのアプローチは、なんていうか一周してようやくニヤリと笑えるものであるような気がする。ま、そんなことしなくたって、十分可笑しいのだが。

*3:最も単純にクラシックDnDを遊ぶなら、ダンジョンに入る理由とゴールまで進む意味は、金稼ぎと立身出世と生存、といえるだろう。もっといろんな遊び方もできるけど、システムに書いてあるのはこのくらいだ(w 

*4:そしてダンジョンとシティとドラマがかねあうシナリオだと、このダンジョンエクスプローラ型構造が次々と入れ子になって絡むこととなる。

*5:ハンドアウトとかロイスとか縁故とかだね。

*6:運用はまた別だが、シナリオ記法という象限で考える限り、シーン制のシナリオもまたダンジョンエクスプローラ型と言えるだろう。

*7:しかし供給を絶たない限りは、この欠点さえオフィシャルから見れば利点になりうる。

*8:そして僕はこの様式には結構はまったけどね(w

*9:個人的には「街系」型、ないしは「ギャルゲーメソッド」型と読んでいる、けど、そんなことはどうでもいいですね(w 

*10:「街」とかっこつきで表現しているのは、しばしばこれは街そのものを表さず、キャラクターに包含された世界そのものであることが多いから。逆に、個人の能力をはじめとして、心の流れや、人の関連性など、“世界”がよく表現されたルールならこの様式を用いることは可能である。積極的にサポートして無くても、潜在的にこの様式を用いることのできるゲームは結構多そうだ。

*11:もちろん、僕の知らないシステムが実装してたりもするんだろう。「シャドウラン」とかはいけそうな気もする。またサプリメントや同人エクスパンションとかで拡張しやすいのもこの様式の特徴である。ファンタジー系でそういうのがなかなか見られないのは、やはりみなファンタジーには生活よりも冒険を見つけたがるからだろうか。

*12:やろうと思えば複雑な条件分岐や複雑なNPCの行動原理の変遷を扱うシナリオだってできる。システムでサポートされているぶん、やることも、やらないことも選択できるというのは割と大きい。

*13:まあ、これはある程度規模が大きくなれば、どんなシステムだってそういうことは起きるんだけどね。

*14:たとえばワンダリングモンスターが出現するある確率を持った空間をプレイヤーのやりたいように歩かせるのも一種のランダム型と言えるかも知れない。

*15:かつての友人にこういうのができる人がいた気もする。僕は、違ったな(w 

*16:Fローズに似たような仕組みを作れそうなモジュールがあった気がするのだが、残念ながらFローズもランダム型シナリオ形成をきちんとサポートするようなルール体系は持ってなかったなあ。まあそのへんは、ゲーム内ミニゲームでいくらでもカバーが効くのだけど、と、老害は思うのだが(w、しかしシステム製作の立場から言えば、否でもあろう。もっともランダム型シナリオは今の僕の興味の方向性ではないのだけど…。