世界を作るということ・初級編(TRPGと物語(ix))

■前回「世界をどう切り出したらオモシロイか、それがほとんどルールである」というようなことを書いた。そのために世界とその切り出し方にはゲームデザインが必要なわけだが、そういった各論的話題の前にもっと大事なことがある。

■その世界に愛はあるか? である(笑。でもマジ)。できれば憎しみもほしい。

■これは僕自身強く自戒していることだし、僕以外のTRPGを作ってみたいというような酔狂人にも繰り返し述べているのだけど*1、商売的な制約*2も許されず、天才でもない素人デザイナーにとって、愛のない世界など描けないのである。…なんとなく思いつかないからファンタジー、ではオモシロイ作品は絶対に作れない。なぜなら、ルールで切り出すのは世界のほんのわずかなキモとなる部分であり、それは膨大な世界の総量*3を持って初めて見つけ出せるものだからである。そして、人生につまらないものなんか作ってる暇はない*4。まあだから僕もこんな小難しいことをぶちぶち考えているわけで。

■手前みそになるが、月夜埜綺譚の世界は僕にとっては、もうこれしかない! というくらい愛憎の詰まった世界である。なにしろ郊外の街はTRPGと関係なくここ10年以上追いかけている世界なんだから。…現代の郊外。農業と都市の相克。用水路。河。ダム。旧家の人々の大きな、でも滅びの予感を秘めた家々。空き地の目立つ工業地帯。廃墟や空テナントがどんどん増えているのに、なぜか増えていく新築のビル群。ぱっとみはこぎれいなのに、それが古い傷をただ押し隠したものでしかないかも知れない道並み。小高い丘から見た、家々に小さく灯りのともる夕景。そして隠された酸鼻な事件と、それらをめぐる愛と憎しみの物語。愛しき日常? そんな言葉を使うのは何も知らない人だけ。でも、むやみに“失敗した街”などとほざくのは、その場で地に足をつけて生きることがどういうことかを全く見ようとしない、大馬鹿野郎だ…。*5

■言ってしまうなら、そこから、将来への漠然たる若者的不安と、どんな年齢でもふいに襲われる青春、多世代・異文化コミュニケーションの可能性・必要性、ただ日々を生きることの英雄性、そして自由を切り出したのが月夜埜綺譚のルールである。…もちろんTRPGをデザインするに当たってこんな文学的(あっはっは)なものを切り出す必然はない。けれど、様々な角度で切り出すことのできるボリュームがあって初めて、面白いものを自分で選んでいくことができる、というのはおわかりになると思う。たとえばやろうと思えばやくざものはいけるだろうし、金持ちたちのコンゲームを切り出すこともできるだろう。実に、月夜埜綺譚の世界の“少女漫画的成分”を切り出そうとしているのが、現在本稿で構想中の「シティライツ」なのである(w*6

■…まあでも、これってTRPGに限った話じゃないか。人が生きることを扱う限り、彼らがどこにどのように立っているか、そのうちに“物語として訴えかけるものを切り出していく”というのが、物語を作ると言うことなんだろうし。それはまた葛藤とリズム、なにより物語という制約の問題でもあるのだけど…

*1:えらそー(笑)。でもこんな邪道な遊び方するんだもん。覚悟くらいしろよ、ってことだよ。お互いにがんばりましょー(笑)。

*2:たとえば電撃文庫的ファンタジーふう世界を作れ、と決めうちされれば、それなりにやりようがある。またもや“制約”の話になっちゃってるけど、この制約の枠をどう決めるかがほとんどキモなのよ。これを他人任せにできれば、おもしろみは下がるだろうけど、安定して確実なものを作れる。…まあこれで売れるかどうかの責任をとらされたんじゃたまった紋じゃないだろうけど。

*3:といってもこれは設定書類の総量などではないので誤解なきよう。その世界に触れられるくらい作り込んで情報を盛り込むことができるか、ってのが近い。歴史の教科書的ではなく(それも大事だが)、五感に訴えかけるカタチでの総量である。剣で斬りつけたとき何回くらいで死ぬかだってこういうものから逆算して生み出せるものである。人を斬ることがどういう意味を持つか、だってね。…逆にこれが決まっていれば、歴史教科書的な設定なんてほっといても何ページでも生み出せるものでもある。

*4:こうして同人作家たちはよきものを作ろうとしたそのとたんに様々な友情を失っていく羽目となるのだが、それはまた別の話。もちろんそれがいやだから楽しく作るってのもありだと思う。そういう生き方を否定できるほど立派なもの作っちゃいないし、誰かを助けられたわけでもない。

*5:これは自慢でも何でもなくて、僕みたいな凡人はこーじゃなきゃつくれないのだ、という例。でも愛せるものがあるというのはいいことです。

*6:もちろんオモシロイルールの実装を思いついて、そこから逆算的に世界が広がっていくこともあると思う。それはやっぱり、ルールに表現されたその世界の“風の匂い”の問題である。たぶんTRPGを作ってる時って、究極的には世界とルールをわけて考えているとうまくないんじゃないかな?