GMからの要求、PLからの要求、そしてシステム(TRPGと物語(iv))

■言葉を乱暴に使っているのでちょっと整理して、以下は気をつけます。ここでいう「物語」とは、ざっくりした定義で“人が話す嘘話で、誰かにきちんと聞いてもらえる(内容やパッションをある程度共有できる)もの”という感じのニュアンスとします。嘘話という言葉には人生をかけた(笑)含蓄があるのだけどまあこれは脇に置いておくこととして…。

(そしてこの論考みたいなものは、物語の構造を逆説的にTRPGにとりこんで、もっと能動的に物語的セッションを構築するのにたやすいルールとはどういうものかしら、というのを模索していくものでもあるわけです。)

■さて。

■たとえば。たとえばですよ。あるマニアックなGMがPLにもう感極まった演技を求めるとする。あるいはPLがGMに、血湧き肉躍る描写を求めたりする。あるいは醜い言葉をわざと吐かせ人間的に追いつめながら限界を模索するとか。こんなの実際のプレイでは問題アリアリなんだろうけど、実はシステムが感知する問題ではない。けれど、たとえば感極まる演技を、血湧き肉躍る詳細な描写を、人間を追いつめる厳しい言葉を、システム自身がたくさん求め始めたらなんだかややこしいことになる。

■かつて、シーン制各ルールやサタスペAの魔法陣上海退魔行、月夜埜綺譚がなかったころ、D&Dもせいぜい頭にAがついていたころ、進行管理はGMが毎回セッションのテーマやトーンに合わせてデザインしなければならないミニゲームだった。なにしろかの有名な馬場講座だって、進行管理をどうすればいいかってことにあんなにページを割いているのだ(w もちろんそれが楽しいという向きはわかる(僕だってファイティングファンタジーでセッションしたこともあるんだ)けれど、それ以降のシステムを知った現在、そのことを“システムに強要される”のはちょっとしんどい。

■実際問題、システムはプレイヤーにどこまで求めることを許されるのか。それは小さくない問題である。別に熱い台詞を言わせるのも、ドライな態度をとらせるのもいいけど、あれもこれもと言ってると、いつの間にかプレイヤーはシステムどころではなくなってしまう。そうやって生じた無法地帯に、共有不能なイタイ“美しいモノガタリとやら”がしばしば忍び込んでくるのはよくある話。実は別に中心がシステムである必要はないのだけれど、なにかを共有するというその空間が失われれば、TRPGが生み出していた物語はそのまま破砕してしまう。

■…ここで繰り返すならば(ここでいう)物語は共有されない限り発生されないし、魅力を発揮することもない。そして思想や文化も違う様々な人々をTRPGがつなぎ合わせるとき、もっともお手軽な素材は、システムである。それも“背景世界”のような曖昧な条項ではなく、ルールを使う様々なタイミングにまつわるものが向いている。

(たとえば進行管理や戦闘だね。でももちろんそうじゃなくプレイヤー同士で共通認識を必死扱いて作り上げていくのもアリなんだけど、この稿はシステムがそのために何をできるか、って話だから、割愛。)

■このあたり、進行管理じゃない代表的なものでいえば、クトゥルフの呼び声の“SANチェック”だろうか。それは恐怖の演出であり、恐怖体験が発生していることをプレイヤーに共有させ、あるいはその結果を見せつけるポイントにもなる。そしてなによりあるシーンの開始・ないしは終了を表す符丁である。SANチェックの真価は、なによりもその“タイミング性”にあると思う。

■…ある種のマスターのSANチェックの宣告がプレイヤーを恐怖させ、あるいは爆笑させ、焦燥させる。それが実にしばしばSANチェック宣告のリズムを共有することによって生み出されているのだ。その素材があのような明快なルールで示されていることは、すごいというほかない。あとは探索を、やはり明快なBRPのパーセンテージロールでやることしかシステムは求めていない。(実にラヴクラフトの作品を読むことさえもここには義務づけられていない(笑)。笑っちゃうけど、これってすごいよねほんと。)

■結局のところ、マスターやプレイヤーがお互いに何を求めようとシステムは知ったことじゃない。しかしシステムがねらった“なにかを共有する場”を最小限のコストで最大限に生み出そうとすることは、システムに対して求められている、と考えるべきだろう。そして同様に、システムはマスターやプレイヤーが持とうとする何かを共有する場を、極力阻害してはならない、ってことも。案外、後者ができてないルールも多いんだけどね、これが。(実は月夜埜綺譚もそういう部分があって困るのだが、批判的考察は稿を改めるとして。)

■オーソドックスな宇宙的恐怖も、サスペンスコメディも、ホロリとくる人情ものもいろいろやったけど、クトゥルフの呼び声のプレイはどこか一貫したトーンで思い出せる。そこには僕の言う葛藤やリズムもあったし、恐怖もあり、なんとなく共有できる物語があった。

■…偉大な先人を前に、なにやら立ちつくすのみ、なのだけど、つづく。