『続・あしながおじさん』ジーン・ウェブスター

■「人生を変えた本」では大げさすぎるけど、大きな位置を持っていて、とくに創作方面に影響を与えたという意味では、トラウマティックなまでに巨大なこの本。以下、ネタばれを含む。

■世界的に有名な書簡型小説である『あしながおじさん』(これも大傑作)の続編として作られたこの物語は、ヒロイン・ジュディスの親友が、ひょんなことから孤児院の院長を始めるところから始まる。善人で世間知らずの彼女がさまざまな苦難を経て、ちょっとずつ大人になり、生涯の伴侶を見つける。…ディケンズが『デヴィット・コパフィールド』でイギリスの孤児院業界を変えたように、この物語もアメリカのその業界にずいぶんと影響はあったというし、社会主義だ何だという作者自身の主張もあるが、それはおそらく本題ではなさそうだ。

■僕の胸を打ったのは、時代を超えて腹にこたえるさまざまな孤独の姿と、逃げることを許さない人それぞれに秘めた暴力、そして一人ではないことの意味、みたいななにかだった。ヒロインの名前さえもうる覚えなのに、忘れられないシーンがある。

■動物虐待を続ける孤児。それを見つけ激昂のあまり腕を振り上げるヒロイン。脇を捕まえお玉か何かで殴打をはじめ、その孤児が痛みに悲鳴を上げ、声が許しを請う絶叫に変わっても彼女は手をとめることが出来ない。…そのまま続けば、彼女はその孤児を殺していたかもしれない。しかし彼女は一人ではなかった。

■その瞬間に駆け込んで、彼女の振り上げた手をとどめてくれる人がいたのである。彼はヒロインを責めるでなく、恐怖におびえてみるわけでもなく、自らの行った暴力に衝撃を受け泣き出してしまったヒロインを抱き止めさえした。もちろん受けた暴力にぼんやりしている孤児へのフォローも忘れなかった。彼の英雄的な活躍により、幼い孤児院長は成長を許され、一人の孤児は絶望的な破壊を免れたのである。もっともそれは、たまたま居合わせただけの幸運だったのかもしれない。

■今、幼児虐待を行っているさまざまな母親たちと同世代になってみて、ときおりこのシーンがフラッシュバックのようによみがえる。もしかしたらただ幸運でなかっただけかもしれない彼女たちのことを思いながら、自分や、家族のことを考えたりする。

■お金持ちの娘さんが、お金持ちになった女友達にそそのかされて、孤児院を経営する羽目になる、というお話。

続あしながおじさん (角川文庫)

続あしながおじさん (角川文庫)

■…月夜埜綺譚にむりやりからめると、あのTRPGの英雄像は、このシーンの彼が基調となっている。派手さはなく、誰に賞賛されることもなく、けれどちっぽけに壮大に世界を守るようなそんな彼らに“夜の側の英雄”という呼称をつけて。もちろんそんな壮大なことばかり考えてあの作品を作っていたわけでもないのだけど、そんな場所にもこの物語は影響を与えている、というわけで。