完売記念セッションを思い起こす(前)

※いまさらではありますが、せっかくなので、10/10に開催された完売記念セッションの話。

■「今、すべての状況は絶望的な結末へと一直線に向かっています。この状況をどうにかできるのはここにいる皆様しかいません。」

■初めての方たちが多かったので、セッション開始の開口一番をこんなふうにしてみた。これは要するに、僕はこういうゲームマスターですよ、という宣言である。けれども、ずいぶんしっくりしすぎていて、内心笑ってしまった。そして月夜埜綺譚というシステムが、どういうマスタリングをすることをまず考慮して作られたかも、如実に表してしまっているような気がして、個人的に面白かった。

■さてさて。

■取り壊しが始まろうとする古い団地。解体工事を拒み、団地に居座り続ける足の不自由な老人。挫折感の中に生きる神経質なホームヘルパーの女性。「ビッグになるんだ」が口癖の愚かな若者。解体工事をめぐって背後で動く汚いお金と、あわれな幽霊。相次ぐ独居老人の孤独死。微妙に揺らぎ始める“世界の法則”。それを守るために派遣される幼い暗殺者。いつか誰かが託した夢と、後出しじゃんけんであしざまにののしられる“破れた夢の始末”。…そのすべてが絡み合い、すべての人々が誰にも望まれない悲惨な死へと突き進んでいく。

■初めてのお客様が多いセッションで、こんな地味な話でいいんですか? と2秒ほど考えたりもしたのだけど、いやいやだからこそ“月夜埜綺譚の真髄”でお相手しなければならないのじゃぁ! と思い直し、シナリオは一気に書き上がった(笑)。世界を救ったりはしない、目くるめくような運命も、燃えるような恋も無い。無視したところで新聞の3面を2日ほど飾れば忘れ去られてしまうような悲劇のために、主人公たちは立ち上がる。こーゆーのこそが燃えるのだぁ! と思いをこめ、月夜埜綺譚ライクに仕上げた。*1

■状況は状況としてあるだけで、警察の動くような事件性はあらかじめ用意されてはおらず、主人公たちはそこに絶望のにおいを嗅ぎ取って、未然に防がなければならない。そして事件は“誰も死ななかった連続殺人事件”のように変遷していくこととなる。が、しかし。月夜埜綺譚のセッションで、マスター側が想定する展開なんぞがおとなしく流れていくはずもなかった。

■ちなみにPCのうちわけは以下の通り。音楽ブログを経営する主婦、月夜埜署生活安全二課の巡査、長谷部大学病院に勤める看護師、そしてなぜか傾国的美貌を持った落語家。

■彼らは初っぱなから飛ばしていた。導入ターンからレベル3レイズ*2が飛び交い、なぜかPC一堂が合コンで盛り上がり、さらに当初から登場していたNPCの設定や裏話、事件の大まかな真相はほぼ2ターンで出そろってしまった。老人の悲しい過去も、ホームヘルパーが為した過ちも、若者の愚かな暴走も、すべてがセッション開始日*3の夕刻には明らかになっていたのだ(笑)。

■しかし“過去”と“現在”は必ずしも重なっていないし、過去や理由を追いかけたところで、行動までは予測しきれない。若者がナイフを持ったまま行方不明になり、謎の少女幽霊は現れ、事件を終わらせるために“世界を統べるよくわからん組織”から暗殺者まで送られてきて、事件はいっそうぐるぐるになっていく。必死の捜索行の果てに、少女幽霊と孤独な老人の人生の哀しい交わりを見つけたPCたちは、殺意と絶望にまみれた若者と、暗殺者の前で“物語”を一席ぶつことになった。

■それはその場所に託された夢の話。しあわせな生活を願ったちっぽけな男の挫折と苦渋。愛することを誓った愛娘にまで先立たれ、男は暗闇の世界をはいずり回る。けれど死を前にして男はその場所へと戻ってくる。たとえその場所が彼に苦しみしか与えないとしても、その託された夢を、痛みを、忘れないために。そして男は愛娘と、その場所に託された思いと、再会することとなる。

■その物語はのちに「団地夜話」と名付けられることとなった。

■…そんなセッションでした。

ゲームマスター的にはひたすら舞台装置を伝えることと、状況をかき混ぜるちゃちゃいれを延々とやっていただけなんだけど、気がつくとこんな話しになっていました。つーか月夜埜綺譚のGMって、舞台装置を伝えることと、状況をかき混ぜることが仕事なのかしらん、とか思いながらやっていました。すばらしいセッション。それにしてもお初の皆様のルール理解度の高さには舌を巻きましたけども。

■面白かったり、盛り上がったり、いろいろ発見があったセッション。そしてさらにお客さんとしてきていただいた購入者の方のマスタリングによるセッションが始まったのですが…

■この稿、つづく。

*1:と、言葉で書いてしまうと、妙にこっ恥ずかしいけど、そういうヒロイックを実現させるためのゲームなんですよう。そういうの現代物でなかったから作ったんですよう。うんうん。ファンタジー系でやるとしたらウィッチクエストかしら。…でも初期のテストプレイセッションは、世界の趨勢をかけた危機もの、をやったなあ。一組の壊れかけた家族を壊れないように見守ること、が世界を守ることにつながる、という妙な話だったけど。

*2:レイズ:月夜埜綺譚の行為ロール時に行うオプションで、難易度を自らつり上げることにより超越的な成功をプレイヤー自ら発生させることができる。ちなみに1レベル:普通のゲームのクリティカル、2レベル:現実の垣根を越えたご都合主義的なのもOKな成功、3レベル:奇跡、4レベル以上:世界の再構築、ないしは危機。ちなみにモーセの海を割る神事は、4レベルのレイズに成功したものと見なされる(冗談ですが、ルールブックにそういう表記があります。)。

*3:これはゲーム内時間のこと。「昼」でセッションがスタートし、その次のターンの「夕」にはほとんど情報が出そろっていたこととなる。